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東京地方裁判所 昭和55年(タ)94号 判決

国籍 中華人民共和国 住所 東京都

原告 王徳志

国籍 中華人民共和国 住居所 不明

被告 王清順

主文

一  原告と被告とを離婚する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

一  原告訴訟代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、請求原因として次のように述べ、証拠として甲第一ないし第二七号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用した。

1  原告(大正六年三月三日生。出生地中国湖南省。性別男性。)と被告(大正四年生。出生地中国広東省。性別女性。)は、昭和一〇年ころ、上海において知り合つてその後交際を続け、昭和一六年九月ころ、中国四川省重慶において、同国の方式に従つて婚姻をなし、その間に、昭和一六年四月長男王東竜を、昭和二一年五月長女王得春をそれぞれもうけた。

2  原被告は、当初は重慶において、次いで昭和二一年三月ころからは上海において婚姻生活を営んでいたが、その後中国革命の影響を受けて上海に留まることができなかつたため、まず昭和二五年三月原告が単身香港に移り、約半年後には被告と長女を呼び寄せ、長男は被告の母親に預けた。

3  原告は、香港において情報活動に従事していたところ、中国共産党から、蒋介石政府関係者であるとして追われる身となり、被告の了解を得て、昭和二九年一月、単身日本に密入国した。原告は、当初は、日本での生活が安定したら被告ら妻子を日本に呼び寄せるつもりであつたが、数回の文通の後、昭和三〇年になると被告からの音信は全く跡絶え、その後今日に至るまで被告の所在はおろか、その生死すら不明である。なお、原告は、在留特別許可を受けて日本に在住し、昭和三〇年一二月以来日本国民東山やす子(昭和六年五月一五日生)と同棲し、事実上の結婚生活を営んできている。

4  よつて、原告は、被告に対し、中華人民共和国婚姻法一七条、一九条に基づき、原告との離婚を請求する。

二  被告は、公示送達による呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

一  その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一、第二、第七、第一〇号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因1乃至3の各事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

二  本件離婚の準拠法は、法例一六条により、その原因たる事実の発生したときにおける夫たる原告の本国法、すなわち中華人民共和国の法律によるべきところ、同国婚姻法(一九五〇年五月一日施行、一九八一年一月一日新法施行に伴ない廃止予定)は離婚原因について特段の規定をもうけていないが、その趣旨は要するに婚姻関係を維持することが不相当と解すべき事情の存するときには裁判による離婚を認め、かつ、離婚申立の当否の認定はこれを裁判所の判断に一任しているものと解するのが相当である。

そして、これを本件についてみるに、前記認定の通り、被告は二〇数年もの間その所在はおろか生死すら不明であつて、原被告間の婚姻関係はその回復が期待しえない程破綻しているものというべきところ、事ここに至つた原因について、原告に特段の有責性を見出し難く、結局、最早、本件原被告間に婚姻関係を維持せしめておくことは、制度の趣旨等からみて不相当であり、かつ、右は、日本民法七七〇条一項三号にも該当する。

三  よつて、原告の本訴離婚請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 牧山市治 裁判官 押切瞳 池田光宏)

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